命のルーツについて
長くパネテリエでプリンを焼く理由が見つからずにいたのですが、この度ある動物のおかげで、みなさまにお伝えしたいことが見つかり、プリンを焼く事にいたしました。
それは、「つくると食べる」の間をつなぐ「命」について。
私達がプリンを通して伝えたい事、それは「命のルーツ」です。少し重たい内容ではございますが、「食材という名の命」について少しお話をさせていただきます。
一般的に日本国内ではお菓子屋さんやパン屋さんへ、鶏卵という素材が3種類の作り手の都合に合わせた形で届きます。一つは段ボールに入った殻のついた卵。二つ目はそれを機械などで割った状態で袋詰めされ卵白・卵黄・全卵など。これは選んで注文できるバケツのような容器で届く液卵と呼ばれるものです。よくケーキ屋さんなどの裏口に青い四角いケースが積んでいると思います。三つ目はそれを殺菌し、紙パックや真空パックで冷凍された状態で届く、冷凍(凍結)卵。
私も以前の職場ではそれを大量に消費するため次々にパカパカと割ったり、袋を開けドバドバと使っていました。どんな鶏がどんな様子で産んでくれ、どうやってここにやって来たのかなど気にもせず、味や品質、ブランドや安全性、その謳い文句を見聞きする程度に留まっていました。
各地の商品開発をしながらこのパネテリエを開くにあたり、「つくると食べるがつながるところ」のコンセプトを軸に全てを判断してきていたつもりでしたが、卵は美味しいもの、安全なもの、程度の判断でしかなく、その卵のルーツとなる親鳥の暮らし、鶏の尊厳にまで想いを巡らせる事などないままでございました。
しかし本来なら、命をいただく私達人間と、大切な命(卵)を捧げてくれる鶏、それは対等以上の重く大切な関係でなくてはならない様に思っています。特に、我々の様なお店でつくるお菓子やパンなどについては、安い事がある種の正義である日用品とは違い、嗜好品と呼ばれるものが多く、人を幸せにするためにつくる食品がほとんどです。
貴重な素材を生み出してくれる動物たちの尊厳をこれまで無視しながら潤沢に卵を使ってきた事に強いショックを覚え、それに対する自責の念が深く私に突きつけました。
このパネテリエを開くにあたり、厨房に届く全ての卵の親鳥が、鶏の尊厳を守られているのか、アニマルウェルフェアの考えとBioの考えに基づいているかを最低限の条件として味見を繰り返し、我々の手で大切に使わせていただく事にいたしました。
平飼いの養鶏場では、毎朝卵を取り上げられて、親鳥として幸せとは言えないかもしれませんが、パネテリエのキッチンで我々が対峙する時、殻の薄い卵だな、若いお母さんかな、ザラザラしてるな、何歳くらいの子かな、ごめんね、ありがとね、そんな言葉が自然と漏れてしまいます。少しイタイ人たちかもしれませんね。
しかし、これが現実であり本当のお話です。これは、今年初めて卵を産むところを見せてくれた、庭のアヒルが教えてくれた、私たちの命を繋ぐ、命のルーツのお話でした。
いつか山の中で自由に羽ばたき、くちばしは尖り器用に虫を食べ、全力で走り回る、そんな鶏たちと暮らしてみたいなと思います。
そして、これを機会にアニマルウェルフェアを検索してみたりなど、日頃いただいている「食品」という名の命について知っていただけると嬉しいです。